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熱中症は労災になる?厚生労働省の認定基準や事例・申請手続きを解説|Factory ResQ³

環境改善・熱中症対策 2026.07.31

近年、猛暑日の増加により、業務中に熱中症で倒れる労働者が全国で相次いでいます。炎天下の建設現場や高温多湿な工場など、暑熱環境下で従業員が発症した場合、企業として労災申請すべきか判断に迷うケースも少なくありません。実は熱中症は、業務起因性と業務遂行性が認められれば労働災害として認定される疾病です。しかし、認定要件や申請手続き、企業に課される安全配慮義務までを正確に把握している担当者は多くはないでしょう。

本記事では、厚生労働省が定める熱中症の労災認定基準や実際の認定事例、申請の流れと補償内容、そして企業が負う法的リスクと現場で実践したい対策までを網羅的に解説します。

 

 

熱中症は労災(労働災害)に認定されるのか?

業務中に発症した熱中症は、一定の要件を満たせば労働災害として認定されます。ここでは、労災の対象となる熱中症の基本と、認定に必要な法的根拠・要件について順に解説します。

要件の名称

概要

具体的な確認内容

一般的認定要件

業務と発症の因果関係

業務上の原因が存在し、個人的な理由による発病ではないこと

医学的診断要件

医学的な事実の確認

医師による熱中症の診断や、作業環境の温湿度条件の把握

参考:厚生労働省 通達「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」

参考:職業病リスト|厚生労働省

 

業務中に発症した熱中症は労災対象

労働災害における熱中症は、労働基準法施行規則別表第1の2第2号8に定める「暑熱な場所における業務による熱中症」に該当する疾病として扱われます。生活環境よりも著しく高温な場所や、身体的負荷が大きい作業に従事した結果として発症した熱中症は、業務起因の疾病と判断されやすくなります。

具体的には、炎天下の建設現場や道路工事現場、冷房設備が不十分な工場や倉庫、加熱炉の周辺、通気の悪い屋内厨房などが代表例です。一方、空調が整った一般オフィスで発症したケースなど、作業環境と発症の関連性が薄い場合には業務起因性が認められにくくなります。現場では、気温・湿度・作業時間・作業内容を日々正確に記録し、労災認定時の判断材料として残しておきましょう。

 

熱中症は労基法で業務上疾病と定められている

労働基準法第75条および同法施行規則別表第1の2に「業務上の疾病」として明記されているため、熱中症は労災補償の対象です。具体的には、別表第1の2第2号8「暑熱な場所における業務による熱中症」がその根拠条文にあたります。

労働基準監督署は、労災認定の判断にあたって、まず「業務遂行性(事業主の支配・管理下で発症したか)」と「業務起因性(業務が原因で発症したか)」を確認し、その上で疾病該当性について「一般的認定要件(作業内容・作業環境と熱中症との因果関係が明らかであること)」と「医学的診断要件(作業環境の把握、症状・体温の観察、他疾患との鑑別診断が行われていること)」の2つの観点から審査します。

両方を満たして初めて労災保険給付の対象となる仕組みです。労務担当者は申請時の書類準備や労基署への説明を円滑に進められるよう、こうした法的枠組みを理解しておきましょう。

参考:業務上疾病に関する関係法令

 

業務との因果関係を証明する「一般的認定要件」

業務との因果関係を証明する「一般的認定要件」

一般的認定要件とは、熱中症の発症が業務に起因していることを、作業条件および作業環境の観点から客観的に確認するための基準です。労災認定にあたっては、まず「業務遂行性(事業主の支配・管理下で発症したか)」を確認した上で、「業務起因性(作業が原因で発症したか)」を一般的認定要件によって審査します。

実務上は、次の3つの観点を総合的に判断するとされています。

  • 作業環境が暑熱な状態(高温・多湿、直射日光下等)であったこと
  • 当該作業条件(作業強度、連続作業時間、休憩の頻度等)から熱中症が発症するのが自然と認められること
  • 持病や飲酒・睡眠不足など個人的事情が主原因ではないこと

たとえば、就業時間中に炎天下で連続作業をしていた最中に倒れたケースは、業務との因果関係を認めやすい典型例です。逆に、休憩時間中の私的行動や、前日からの深酒による脱水が主因と判断された場合は、要件が否定されます。判断を裏付けるため、作業日報・WBGT値等の現場記録・気象データ・目撃者の証言などを整理して残しておきましょう。

参考:厚生労働省「業務上疾病の認定基準及び関連通達集」

 

症状と作業環境の医学的裏付けである「医学的診断要件」

医学的診断要件は、労働者に生じた症状が医学的に熱中症であると診断でき、かつ発症時の作業環境が熱中症を引き起こしうる条件であったかを確認するものです。具体的には、めまい・大量発汗・筋けいれん・意識障害・体温上昇などの症状が診療録や診断書で裏付けられ、当日の気温・湿度・輻射熱・作業強度が高温多湿環境と評価できることが求められます。

特に暑さ指数(WBGT)の実測値は、環境条件を客観的に示す有力な根拠となります。労災申請時には、医師の診断書に加え、WBGT測定記録・作業日誌・現場の気象データ・使用していた保護具の状況などを添付することで、認定審査を円滑に進めやすくなるでしょう。

参考:令和6年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表します|厚生労働省

 

熱中症が労災として認定される具体的な要件

労災認定で重視されるのが「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの概念です。ここでは各要件の意味と、厚生労働省が示す「暑熱な場所」の考え方、労災認定されないケースまで具体的に解説します。

判断基準

定義

熱中症における具体例

業務遂行性

事業主の管理下で業務に従事していること

作業中、または業務指示による待機中の発症

業務起因性

業務と発症の間に因果関係があること

猛暑の屋外作業による体温上昇と水分不足

参考:「熱中症」は労災が適用される? – NIKORO / 新潟雇用労働相談センター

参考:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定」パンフレット

 

業務遂行性と業務起因性の判断基準

業務遂行性とは、労働者が会社の指示に従って仕事をしている最中に発症したかどうかが問われるものです。
例えば、以下のような場合に認められます。

  • 就業時間内に作業をしている最中
  • 会社の指示で移動している最中
  • 指定された休憩場所で待機している最中
  • その他、事業主の管理下にあると認められる状況

業務起因性とは、「その仕事をしたから熱中症になった」という直接的なつながりを示すものです。
判断のポイントは以下です。

認められやすいケース

  • 炎天下で長時間の交通整理を行っていた場合
  • 高温の炉の近くで作業をしていた場合

否定される可能性が高いケース

  • 休憩時間中に個人の自由な意思で激しい運動をして熱中症になった場合

 

厚生労働省が定める「暑熱な場所」とは

:厚生労働省が定める「暑熱な場所」とは

厚生労働省が労災認定の要件として定めている「暑熱な場所」とは、単に気温が高いだけの場所ではありません。職場が一般的な生活環境よりも暑い、作業による身体的負荷が高いなどで、熱中症になりやすい状態にあったと推定される場所を指します。具体的には、直射日光が強く当たる屋外や、風通しが悪く熱がこもりやすい屋内、発熱する機械の周辺などが該当します。

また、温度だけでなく湿度や輻射熱も加味した「暑さ指数(WBGT)」が、暑熱な場所であるかを客観的に判断する指標として利用されます。WBGT値が基準を超えている環境で作業を行わせていた場合、労働基準監督署は「熱中症を発症する危険性が高い環境であった」と判断しやすくなります。

参考:厚生労働省「業務上疾病の認定基準及び関連通達集」

 

労災認定されないケース

業務中に熱中症を発症したとしても、労災と認められないケースも存在します。発症の原因が業務環境ではなく、労働者の個人的な事情に大きく依存していると判断された場合です。たとえば、前日に極度な深酒をして脱水状態に陥っていた場合や、著しい睡眠不足など、体調管理の欠如が主な原因であると考えられるケースが該当します。

さらに、持病(糖尿病や高血圧など)が悪化して倒れた場合、熱中症によるものなのか、あるいは持病の自然な悪化によるものなのかの判別が難しくなります。医師の診断において、職場の暑さが原因ではなく持病の増悪であると判断された場合には、業務起因性が否定され労災として認定されません。

参考:令和6年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表します|厚生労働省

 

【事例】熱中症が労災認定された実際のケース

熱中症による労働災害は、屋外の建設現場だけでなく、屋内の工場でも発生しています。ここでは実際に労災認定された事例を業種別に紹介し、認定のポイントを整理します。

参考:令和6年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表します|厚生労働省

 

屋外清掃作業での労災認定事例

社会保険労務士法人の事例報告によると、8月上旬に40代の従業員が道路の清掃作業を行っていた際、熱中症を発症して労災認定されたケースがあります。この従業員は、午前中に体調の違和感を覚えながらも作業を継続し、午後になって汗が止まらなくなり意識が朦朧として病院に搬送されました。

当日の最高気温は36度という過酷な環境でした。この事例では、清掃作業中という「業務遂行性」が明確であり、気温36度という高温環境下での作業が直接的な原因であるという「業務起因性」が認められました。屋外での重労働において、異常を感じたにもかかわらず作業を続けた結果、重症化してしまった典型的な事例と言えるでしょう。

 

工場(屋内)での労災認定事例

屋内であっても熱中症のリスクは高く、製造現場での死亡災害事例も報告されています。ある工場では、50代の男性作業員が炉の近くで軽作業を行っていた際に倒れ、死亡しました。現場では危険性の認識が薄く、WBGT(暑さ指数)の測定も行われていませんでした。

さらに、本人に持病があり体調が万全ではなかったにもかかわらず、通常通り業務を続行させたことが問題視されました。工場内が十分な熱中症対策を講じていない「暑熱な場所」であったこと、体調不良の従業員に対する配慮が欠けていたことが指摘されています。屋内での作業であっても、機械からの排熱や風通しの悪さによって熱中症を発症する危険性があることを示しています。

 

熱中症で労災申請するための具体的な手続きと補償内容

:熱中症で労災申請するための具体的な手続きと補償内容

従業員が業務中に熱中症を発症した際は、速やかな労災申請が欠かせません。ここでは、労働基準監督署への申請手順と必要書類、労災保険で受けられる主な補償の内容について解説します。

補償の種類

概要

対象となるケース

療養補償給付

医療機関での治療費を全額補償

労災指定病院等で治療を受ける場合

休業補償給付

休業中の賃金の約8割を支給

療養のため労働できず、賃金を受けない日が4日以上の場合

参考:厚生労働省「療養(補償)等給付の請求手続」パンフレット

参考:労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)|厚生労働省

参考:労働災害が発生したとき |厚生労働省

 

熱中症発生時に企業が取りたい初動対応

従業員が業務中に熱中症を発症した場合、企業はまず被災者の症状に応じた応急処置と救急搬送を最優先で行います。涼しい場所へ移動させ、身体を冷やし、水分・塩分を補給しつつ、意識障害や高体温が見られる際は即座に119番通報を行いましょう。

受診時には、業務中の発症であることを医療機関に明確に伝え、健康保険証を使わずに労災扱いで受診できるよう窓口で申告します。可能であれば労災指定医療機関を選ぶと、後の給付手続きがスムーズになります。

並行して、発症時の作業内容・時刻・気温・湿度・WBGT値・目撃者などの記録を残しておくと、後の労災申請と認定審査で重要な資料として役立つでしょう。

 

労災申請の流れと必要書類

熱中症の労災申請は、被災した労働者本人または企業が、所轄の労働基準監督署へ請求書を提出して進めます。治療費については、療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)を、労災指定病院を経由して労基署へ提出するのが基本です。指定外の医療機関を受診した場合は、いったん治療費を立て替えた上で様式第7号を用いて費用請求します。

休業補償を請求する際は、休業補償給付支給請求書(様式第8号)に、平均賃金の算定資料や医師の証明を添えて提出します。なお、令和2年12月25日から労災保険関係の請求書・届出様式は押印が不要となり、記名のみで受け付ける取扱いとなっています(事業主・診療担当者・産業医の押印も含めて不要)。企業は事業主証明欄に被災状況を正確に記載する役割を担うため、事実関係の聞き取りと社内での書類保管を徹底しましょう。

参考:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」

参考:厚生労働省「労災保険における請求書等に係る押印等の見直しの留意点について」

 

労働者死傷病報告の提出義務

労働安全衛生規則第97条に基づき、業務中の熱中症で労働者が休業した場合、企業は労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出する義務を負います。休業4日以上のケースでは遅滞なく、休業1〜3日の軽症であっても四半期ごとにまとめて報告する必要があります。

原則として厚生労働省の入力支援サービスやe-Govを介した電子申請で提出します(電子申請が困難な場合は、当分の間、改正後の新様式による書面提出も可能)。報告を怠ったり、私傷病として健康保険を使わせて処理したりした場合は「労災隠し」と見なされ、労働安全衛生法第100条違反として50万円以下の罰金(同法第120条第5号)の対象となります。企業名の公表による社会的信用の失墜も懸念されるため、軽症だからと自己判断せず、迷った際は所轄の労基署へ相談しましょう。

参考:労働安全衛生規則 | e-Gov 法令検索

 

療養(補償)給付と休業(補償)給付の内容

労災認定を受けた労働者は、療養補償給付として治療費の全額支給を受けられます。労災指定病院で治療する場合は窓口負担なしで診察・投薬・入院が可能で、指定外医療機関の場合も費用が後日償還されます。治療のため働けず賃金を受け取れないときは、休業4日目から休業補償給付が支給され、給付基礎日額の60%に加え特別支給金20%が上乗せされ、実質的に平均賃金の約80%が補償されます。

3日目までの待期期間については、業務災害の場合、労働基準法上、事業主が平均賃金の60%以上を支払う義務があります。療養と休業補償を組み合わせることで、被災労働者は治療と生活の両面で安心して回復に専念できるでしょう。

参考:福島労働局/各種法令・制度・手続き/労災保険関係

 

重症化した場合の障害補償給付・遺族補償給付

熱中症は重症化すると後遺障害や死亡につながる可能性があります。重症化した場合は追加の労災給付が存在します。治療後も一定の障害が残った場合には障害補償給付が支給され、障害等級(第1級〜第14級)に応じて年金または一時金が支払われます。等級認定は医師の障害診断書と労基署の審査で決まり、重い等級ほど年金として長期に給付されます。

万が一、熱中症が原因で労働者が死亡した際には、生計を維持されていた遺族に対して遺族補償年金または遺族補償一時金が支給されるほか、葬祭料も別途給付されます。企業側は、重症化事案での説明責任と再発防止策の提示が求められるため、事実関係を丁寧に記録するよう努めましょう。

参考:労災保険とは | 山梨労働局

参考:国立障害者リハビリテーションセンター(厚生労働省所管)「社会保障制度の活用②(労災保険給付)」

 

企業に求められる安全配慮義務と法的リスク

企業に求められる安全配慮義務と法的リスク

企業には、労働契約法に基づき従業員の健康を守る「安全配慮義務」が課されています。ここでは義務の法的根拠と、違反した際に問われる民事・行政・刑事の各リスクを整理します。

責任の種類

主な根拠法令

具体的な処分・請求内容

民事責任

労働契約法第5条、民法第415条・第709条

被災者・遺族からの損害賠償請求(過去に1億円超の判例あり)

行政責任

労働安全衛生法

労基署による是正勧告・指導、書類送検、企業名公表

刑事責任

刑法(業務上過失致死傷罪)

罰金・懲役、経営者個人の刑事訴追

 

安全配慮義務の法的根拠と対象範囲

安全配慮義務とは、企業が従業員の生命と健康を危険から守るために必要な措置を講じる義務です。労働契約法第5条に明文化されており、熱中症対策の文脈では以下の3つが基本要素とされています。

  • 作業環境を良好に保つ配慮
  • 作業内容や労働時間を適切に管理する配慮
  • 健康状態に応じて業務を調整する配慮

加えて、労働安全衛生法および関連省令が具体的な指針となります。特に2025年(令和7年)6月1日からは労働安全衛生規則の改正により、暑熱作業における熱中症の早期発見・重篤化防止のための体制整備や手順作成等が事業者に罰則付きで義務化されました。

義務の範囲は正社員に限らず、パート・アルバイト・派遣・請負作業員にも及ぶため、契約形態を問わず現場で働くすべての人を対象に対策を講じる必要があります。

参考:職場における熱中症予防情報

参考:京都労働局(厚生労働省)「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」

 

違反時に問われる民事・行政・刑事リスク

安全配慮義務違反と判断された場合、企業は民事・行政・刑事の三方面から責任を追及されるおそれがあります。民事では、過去には熱中症による死亡事故で数千万円規模の賠償を命じた判例も存在します。行政上では、労働安全衛生法違反として労働基準監督署から是正勧告や指導を受け、悪質な場合には書類送検・企業名の公表に至ることもあります。

さらに刑事責任として、業務上過失致死傷罪が問われるケースも否定できません。金銭的損失に加え、社会的信用の失墜や採用力の低下といった長期的な打撃も大きくなると考えられるため、平時からの対策徹底が求められます。

参考:令和7年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表します|厚生労働省

参考:酷暑のサウジ出張中に熱中症で死亡 勤務先に賠償命令、最高裁で確定:朝日新聞

 

現場で実践したい熱中症対策

現場で実践したい熱中症対策

熱中症事故を防ぐには、現場での予防策を組織的に実行することが求められます。ここでは環境管理・作業と健康の管理・教育と緊急体制の3つの視点から、実践したい具体的な対策を解説します。

対策の分類

具体的な取り組み内容

期待される効果

環境管理

WBGT値の測定、日除け・遮熱ネット設置、スポットクーラーやファン付きウェアの導入

暑熱環境そのものの改善と体感温度の低減

作業・健康管理

高温時間帯を避けた作業計画、休憩の義務化、始業前の体調確認、水分・塩分補給の時間管理

身体的負担の軽減と個人リスクの早期把握

教育・緊急対応

暑熱期前の研修、救急連絡フロー・搬送先リストの整備、ヒヤリハット事例の共有

発症の予防と発症時の被害最小化

 

WBGTを測って暑熱環境を改善する

熱中症対策の第一歩は、作業場所の暑熱環境を客観的に把握することです。厚生労働省は「暑さ指数(WBGT)」の活用を推奨しています。WBGT計を用いて現場の実測値を確認し、基準値を超える場合は作業中止や作業時間の短縮などの判断を行いましょう。

屋外現場では日除けテントや遮熱ネットの設置、屋内作業場ではスポットクーラー・大型扇風機・排熱ダクトの整備で、輻射熱や滞留熱を減らす工夫が求められます。作業服も、通気性の高い素材やファン付きウェアを支給することで体感温度を下げる工夫ができるでしょう。

休憩スペースには冷房を効かせた場所を確保し、氷嚢や経口補水液を常備するなど、いつでもクールダウンできる環境を整えることが重要です。

参考:STOP!熱中症 クールワークキャンペーン/厚生労働省|厚生労働省

 

作業計画と労働者の健康状態を管理する

作業内容そのものを見直すことも、熱中症予防に効果的です。高温時間帯を避けた作業計画への変更、こまめな休憩の義務化、二人一組でのバディ制導入など、身体的負担を軽減する仕組みを整備しましょう。労働者個々の健康管理では、始業前の体温・体調確認、睡眠状況や飲酒歴のセルフチェック、糖尿病や高血圧などの持病を持つ従業員への配慮が欠かせません。

水分と塩分の補給は本人任せにせず、15〜20分ごとに一口ずつ摂るよう時間管理し、経口補水液やスポーツドリンクを現場で無償提供する運用が推奨されます。作業中の顔色や発汗量の変化を管理者が観察し、異変を感じたら即座に作業を中断させる判断基準も明確化しておきましょう。

 

事前教育と緊急対応体制を整備する

現場に対策を根付かせるためには、事前教育と緊急時の対応体制の整備が必要です。年度初めや暑熱期前に、管理者と作業員の双方に対して、熱中症の症状・応急処置・WBGTの読み方・水分補給ルールなどを扱う研修を実施しましょう。緊急時に備えて、社内では以下の項目を文書化し、全員が共有できる状態にしておくのがおすすめです。

  • 救急連絡フロー
  • 搬送先医療機関のリスト
  • AEDや冷却用氷嚢の設置場所
  • 現場責任者と本社の連絡経路

加えて、ヒヤリ・ハット事例を収集して再発防止に活かす仕組みや、毎朝の朝礼でその日のWBGT予測と対策を共有する運用も推奨されます。組織全体で継続的にPDCAを回すことが、事故ゼロへの近道となるでしょう。

 

熱中症の労災に関するよくある質問

熱中症の労災に関するよくある質問

熱中症と労災の関係は制度が複雑で、実務でも判断に迷う場面は少なくないでしょう。ここでは労務担当者から特に多く寄せられる質問を取り上げ、厚生労働省の規定に基づき解説します。

質問内容

回答の要点

注意すべきポイント

軽症でも労災報告は必要か

休業4日以上なら所定の様式が必要

報告を怠ると労災隠しに該当する恐れ

通勤中の熱中症は労災になるか

合理的な経路での通勤中なら通勤災害の可能性あり

個人的な寄り道中の発症は対象外

 

軽症でも労災申請(労働者死傷病報告)は必要ですか?

労働者が熱中症を発症した際、軽症だからといって会社が独断で労災の手続きや労働基準監督署への報告を省略するのは大変危険です。労働安全衛生規則第97条に基づき、労働者が業務上の負傷や疾病で休業した場合には、労働者死傷病報告を所轄の労働基準監督署長に提出する義務があります。休業が4日以上の場合は遅滞なく所定の様式で提出し、休業1日から3日の場合も四半期ごとに報告を行わなければなりません。

なお、令和7年1月1日からは報告事項が改正され、原則として電子申請(e-Gov)による提出が義務化されています(パソコン端末がない等の事情がある場合は当分の間、書面での報告も可能)。もし、会社が報告義務を怠ったり、私傷病として健康保険を使わせるように指示したりした場合、いわゆる「労災かくし」と見なされ、50万円以下の罰金が科される可能性があります。企業としての信用を大きく損なう結果にもつながるため、判断に迷ったときは所轄の労働基準監督署に相談しましょう。

参考:労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)|厚生労働省

参考:労働者死傷病報告

参考:労働安全衛生規則 | e-Gov 法令検索

 

通勤中の熱中症も労災(通勤災害)になりますか?

業務中だけでなく、通勤途中に発症した熱中症も、一定の要件を満たせば「通勤災害」として労災保険の対象となる可能性があります。通勤災害と認められるためには、労働者が住居と就業場所の間を、合理的な経路および方法で移動している最中の出来事であることが前提となります。

たとえば、炎天下の中を徒歩や自転車で会社に向かっている途中で熱中症に倒れた場合は、通勤に起因する災害として認定される可能性があります。ただし、通勤経路から外れて個人的な用事(趣味の店に立ち寄る等)に及んだ場合には、逸脱・中断中およびその後の移動は通勤と認められません。

一方、日用品の購入、病院での診察、選挙、家族の介護など「日常生活上必要な行為」を最小限度の範囲で行うためのやむを得ない逸脱・中断であれば、経路に戻った後は再び通勤として扱われます。個別の認定は事案ごとの判断となるため、迷ったときは所轄の労働基準監督署に相談しましょう。

参考:労働者災害補償保険法 | e-Gov 法令検索

参考:厚生労働省「労災保険給付の概要」(労災保険給付の概要リーフレット)

 

まとめ

この記事の要点を振り返ります。

  • 業務中の熱中症は、業務遂行性と業務起因性を満たせば労災として認定される
  • 労災認定には「暑熱な場所での作業」と「医師による医学的診断」の両要件が必要となる
  • 労災申請では、療養補償給付や休業補償給付など被災労働者への手厚い補償が受けられる
  • 休業が発生した際は軽症でも労働者死傷病報告の提出が義務付けられている
  • 企業は安全配慮義務を負い、違反時は民事・行政・刑事の重い責任を問われるリスクがある

現場のWBGT測定や教育体制の整備を進め、熱中症ゼロの職場づくりに今日から取り組んでいきましょう。

熱中症は、重症化すれば従業員の健康被害にとどまらず、労災認定・行政指導・ライン停止など、事業継続そのものに影響するリスクへと発展しかねません。だからこそ、水分補給や声かけといった個人の注意だけに頼るのではなく、企業として“予防できる環境”を整えることが求められます。

FactoryResQ³では、工場や作業場で発生する暑さの原因を、建物構造・断熱性能・通気・排熱といった環境面から丁寧に整理し、従業員を守るために本当に必要な対策を一緒に検討します。まずは無料相談で、貴社の現場ごとの課題と優先順位を明確にするところから始めてみませんか。

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